キムビアンカofficial blog「脱ぎなさいよ」

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おだてられて木に登ってるだけのような気がしたんです。あの瞬間。


彼女は真っ黒のオカッパ頭の前髪を無意識に直しながら言った。
目にチックが入った。


それで?


私は故意に無愛想な返答をしてみる。
途端、彼女は嬉々として話し始める、どんな受け答えも返してもらえただけで満足、そんな感じだろうか。


彼はあたしに自分以外のどの人とも会ったり、連絡をとらないようにさせるのです。だからあたしは従順を演じるんです。それでね、毎晩ご褒美をくれるの。解るでしょ?アレがあたしを痺れさせてくれるから、あたしは彼のことばっかり考えてるんです。


幸せって誰かの鍵と誰かの鍵穴になれることだってあたしは思うんです。


彼女は陶器のようにスムースで冷淡過ぎる程に体温を感じさせない肌を少しだけ赤くして話す。


それが、どうして、そんな気分になったんですか?


彼は突然、情熱を失いました、義務的にあたしを抱いたんです、それが悲しくて、悲しみが咄嗟に怒りに変わって、あたしは彼を怒鳴りました、涙があふれて止まらなかった。彼は言い争いの後私を抱きしめました。どうにもならなかったので、そのままふたりで眠りました。その翌日からです、彼が私に気を遣い始めた。メールなんか嫌いな人なのに、作って寄越すのよ。私一瞬でも私をあしらった彼を自然と憎いと感じました。
だから、家出をしたり、他の人と連絡を取ったりしたの。
彼はある夜私を殴りました。
私が何を言ってもきかないから。
それからは刑事さんが知ってる通りです。


彼女の表情は同情を誘うようでありながらもどこか高揚していた。自分の口から出たことばに酔っているようだった。


わかりました
今日はここまでで結構です。


彼女は咄嗟に口角を曲げ、顔を歪めたかと思うと、大声を上げた。


あたしは何にも悪くないのに!


机に突っ伏して泣く声が笑い声に聞こえた。
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substitute for Love
“けったくそわるい”
マリアはたばこの煙と一緒に吐き捨てたセリフに
メロドラマの主人公が乗り移ってるみたいで
ちょっと恥ずかしいと思った。
でもほんの一瞬醒めかかった感情は
また直ぐに水面の下へと沈んで行った。

夜明けにはまだ早い頃
マリアは部屋にたどり着いた。
愛猫の雪はマリアの脱いだジャケットの下敷きになった。
不満そうに部屋を退散していく雪を無視してカウチに座り、
たばこに火を点けた時、
彼女は思わず”あっ”と声をあげた。
いつも完璧に塗られているネイルの人先指がガタガタになっている。
しかもその原因は自分で作ってしまったのかもしれない、と思った。

マリアは時々無意識に爪を噛んでしまう。
それは決まって彼女の中のささくれた感情がとぐろを巻いて
どこにも行き場を失っている時なのだ。

マリアはルームメイトのシンを大声で呼んだ。
二回名前を叫んだら、シンが伸びをしながら部屋から出てきた。
“おかえり、マリア、どうしたの”
ハーフパンツからは長い膝下が伸びている。
シンは隣に座ってマリアの肩を抱いた。
マリアはことばを吐くかわりに
シンに右手を見せた。
シンは 大きくて美しい手でマリアの右手を包んだ。
“あたしの中に沸き起こる感情のすべてに目を凝らしてるのに、
金とかセックスであたしを苦しめようとするなんて許せない”
とマリアは下唇を突き出した。
シンのやわらかい手が髪を撫でる。
そんな時マリアは雪の気持ちがわかる気がする。

実際、マリアにとってシンだけが唯一信じられる男だ。
シンは女を抱かない。
シンはマリアから何も奪おうとしない。

“マリアは無意識の悪意に目をつぶれないんだね”
シンはバーボンソーダをマリアに手渡す。
“あたしとあんたは似てるの”
マリアはグラスを持ってベッドルームへ向かう。
ハイヒールを脱ぎ捨ててベッドに横になると涙が流れた。
やっとだわ、マリアは少し安堵してシンに感謝する。
シンが即興の振り付けを踊りながらベッドルームを覗いた。

マリアは涙が見えないように顔を伏せた。
本当は伸びやかなシンの体を盗み見たかった。
だからその代わりに
“シン、こっちに来てよ”
と彼にだけ言えるわがままを言った。
シンは軽く息をつきながらマリアの隣に寝そべった。
“ダンス好みじゃなかった?”
“ううん、あなたのダンスは最高、世界の何よりも嫉妬を覚えるわ”
“知ってるよ”

シンの美しく鍛えられたからだが近くにあるだけで
無条件にマリアを安心させ、武装を解除する。
平和ってこういうことなのよ、
ふとマリアはシンの胸に抱かれながら思う。

“あんたを愛してる”
言いかけてマリアは眠りに落ちた。
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